Twitterをめぐる冒険。『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』

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ツイッターで先日、おもしろいアカウントをみつけました。

とある外国人料理人。つぶやきの内容から、同国人の仲間と都内で暮らしているようす。

カタコトの日本語特有のユニークな表現がとても魅力的で、多くのフォロワーがいるアカウントです。

ある日、その方が 「にほんの いぬは かわいがっている」 とつぶやきました。

おもしろいのでそのツイートへの返信欄を思わず覗いてみると 「かわいい」「いぬを飼ってるんですか?」 など、素直で何気ない好意的な返信が並んでいました。

その中にふと、その人をからかうような返信をみつけました。さらにアカウントご本人からの返信を期待して挑発するような言葉が続いています。友人たちと何人かで、その外国の方をからかっているようでした。

やだなあ、と率直に思いました。

 

 

 

この本は、NHK広報のツイッターアカウント(NHK_PR)が生まれた瞬間から4年半の記録を、生みの親である「NHK_PR1号」さん(著者・浅生 鴨さん)がつづったものです。

NHK_PRは現在、86.6万人の人々がフォローするアカウント(平成25年6月現在)。

これほど多くのフォロワーを集める魅力は、なんといっても「ユルい」と評されるツイート(つぶやき)の独特の語り口。

NHKという組織への固定化されたイメージにあまりにも相反するそのツイートが多くの注目を集め、のちに「企業アカウントの成功例」と言われるほどの人気アカウントとなりました。

 

著者がNHK広報として「NHK_PR」アカウントを立ち上げたのが2009年頃。

友人とのふとした会話から「ツイッター」の存在を知った著者は、在職中だったNHK広報という仕事にこのメディアが使えるのではないかと考えます。

どのようなアカウントであれば多くの人とつながることができるだろう。

宣伝ではなく、広報を。

できるなら、NHKに対するお堅いイメージもすこし覆したい。

NHK+(生協の)白石さん+のだめちゃん+バカリズムさん(+NHK_PR1号)

(p37 浅生 鴨『中の人などいない』(新潮文庫、2015.6)

そんな設定で始まったNHK広報アカウントが、その後、

bot(自動ツイートシステム)と延々と会話したり、公式アカウントのオフ会に参加したり、「さかなクン」に「さん」をつけるかどうかで葛藤したりしながら自然に独自のスタイルを作ってゆく姿は読んでいて楽しく、著者の思考過程を一緒に追いかけながら小さな種を幹へと育てていくような気持になります。

とくに胸に残るのは、東日本大震災時の記録。

すでに多くのフォロワーが存在したNHK_PRアカウントには、被災者の方々からのツイートがリアルタイムで届いていました。

その時、届いた声がどのようなものだったのか、「NHK_PR」というツイッターアカウントががその声にどのようにこたえたのか。

ぜひ、ひとりでも多くの方に本をお読みいただけたらなあと思います。

 

さて、冒頭にお話しした外国の方のツイッターアカウント。

昨日もその方がカタコトの日本語でつぶやいていました。 「いぬが すわっておだやかに みている」

そう。 私は最初に見つけたその日から、アカウントをしっかりフォローしているのです。

ツイッターアカウントはあくまでネット上のものですから、そのカタコトの日本語の主が本当に「外国人で料理人」なのかどうか、知るすべはありません。

もしかして、とても巧妙でそういうことを楽しめる日本人の誰かが遊んでいるだけなのかもしれません。

たとえそうだとしても、それを承知の上で、そのツイートを見たいと思う。 そう思ってフォローしています。

そして冒頭に書いた、その方を揶揄するようなつぶやきを送るアカウントを、フォローしたいとは思いません。

ふたつのアカウントは私にとって、同等に 「まったく知らない人」 なのに。

その時、私の頭は何を感じているのでしょう。このふたつのアカウントにどのような違いがあるのでしょう。

架空であり、架空でない何か。

パラレルであり、実はリアル以上にリアルな何か。

ツイッターというメディアのなかに感じるのは、何よりも「人」なのではないかと考えます。

どれほど形作っても、体裁を整えても設定を整えても見えてくるつぶやき手。

そんなものがツイッターには潜んでいるような気がします。

 

この本を読みながら感じることも、そんなことです。

そしてさらに、「中の人」と、ツイッターアカウントという「輪郭」との前後左右、360度全方向のの意識のやりとり。

その過程を見せてくれるのも、この本です。

それはさながらひとつのアイデンティティ形成過程のようで、ネットの世界と私たちとのあり様を考えるテキストにもなりうると思います。

 

「初期のツイッター史」とも評される本書。

ツイッターをされている方もそうでない方も、ぜひ。

とてもおもしろい、ツイッターをめぐる冒険です。

 

*この本は今年6月に新潮文庫から発行される以前、2012年に新潮社から単行本として出版されました。

 以降、ネット上で多くの書評やコメント、感想を目にすることができますが、なかでも『極東ブログ』での書評は端的で奥行深く、読者の思考をより深く掘り下げる手助けとなってくれます。

 書き手のご許可を得て、ここにリンクを貼らせていただきます。 finalvent様、ありがとうございました。

  「極東ブログ」 2013.01.06

  [書評]『中の人などいない @NHK広報のツイートはなぜユルい?』  http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2013/01/nhknhk_pr1-76b4.html

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社会科学系大学院卒。子どものころから本のムシ。絵本・児童書から哲学、ノンフィクション、科学書まで。日常に彩り、未来に向かう『本』の魅力をお伝えします。